ちえの木の実の本棚
たくさんの物語に手をのばせる本の森のなかから、これぞ!という本を選りすぐった「ちえの木の実の本棚」を覗いてみてください。
4ミリ同盟
とある地方の人びとは、大きくなると〈フラココノ実〉を時おり食べないと、どうにもこうにもやっていられなくなるという、ふしぎな体質をしています。その実は、大きな湖に浮かぶ小島〈フラココノ島〉に一年中豊かに実り、みんなは、食べたくなったらここに来るんだとか。島へ行くには、定期便の船に乗ったり、橋をバスや自転車で渡ってもいい。特別なことではなく、いくつも行き方はあります。
やさしく切ない、遠い夢のような味の〈フラココノ実〉。食べたことのない人にとっては、この実を食した先には、どんな世界が待っているのだろう、と想像するだけでうっとりしてしまう憧れのような存在です。
ポイットさんは、48年の人生で26回も島へ渡ろうと試みたものの、未だその実を食べられずにいる、いたって普通の真面目な勤め人。エビータさんは、42年の人生で14回も試みたけれど、なぜか島に辿り着けない、いたって普通の主婦。
そんな、大きな秘密を抱えている2人が出会ったのは、レストランでした。
なぜ、仲間だと分かったかって?
〈フラココノ実〉を食べたことのない大人は、地面から4ミリ、浮いているからです。
画家のバンボーロさんも仲間に加わり、3人に!
そして、今こそ叶うかも! と、あることを計画します。
似たもの同士で力を合わせて島へ渡る、ということを。
何かふしぎな力が働くかもしれない、という期待を込めて。
みんなで作ったイカダにかかげたのが《4ミリ同盟》という旗。
心待ちにしていた憧れの〈フラココノ実〉のもとへ、いざ出発です。
出発前に、なんだかんだとあり、もう1人、かわいいおばあちゃんがふえて、4人での船出です。
道中、無事に着きますように、と祈りながら読み進めると……。
〈フラココノ実〉を食した時の、ふくふくと喜びに満ちた様子が描かれていて、安心しました。
でも、冒険の先に待っていたことが……。
憧れの実を食した結果、気づいたのです。
4ミリほど浮いていてもいいじゃないか。
普通と違って、いいじゃないか。
〈何か〉はないけれど〈何か〉はあるんだ。
そして、また、軽やかに人生を歩きはじめた4人でした。
こうして、いくつになっても、経験することで得られる気づき。気心知れた仲間と、心を耕し、ふかふかと柔らかくなる人生って最高ですね。うふふっ、という空気をまとって、お出かけしたくなる一冊です。
