ちえの木の実の本棚
たくさんの物語に手をのばせる本の森のなかから、これぞ!という本を選りすぐった「ちえの木の実の本棚」を覗いてみてください。

月夜とめがね
町も、野も、いたるところ、緑の葉に包まれているころでありました。
おだやかな、月のいい晩のことであります。
静かな町のはずれに住むおばあさんが、針仕事をしていると、コトコト、と戸を叩く音がします。窓の戸をあけると、見知らぬ顔の男が。それは、めがね売りでした。
なんでも見えること請け合いという、おすすめのめがねを手にしたおばあさんは、くっきりはっきりと見える世界にすっかり大喜び! めがねをかけると、らくらくと針のあなに糸を通すこともできます。
そのとき、また、トントン、と戸を叩く音がします。戸をあけると、十二、三の美しい女の子が涙をためて立っていました。指に傷を負っていて、手当てをしてもらえないかと訪ねてきたのです。女の子は、おばあさんのおうちの前を通るたびに、針仕事をする姿を見かけていました。この方は、親切でやさしい人に違いないと思っていたのです。
おばあさんは、傷口を見ようと、めがねをかけると……。
なんと、女の子に化身した、きれいなこちょうでした。
月のきれいな夜に繰りひろげられるおはなしは、おいでおいでと私たちをいつもとちがう世界へ手招いてくれます。そのいつもとちがう世界から、静かな旋律が聞こえ、心が透きとおってゆくようです。小川未明のやわらかく温もりのある情景にそっと寄りそう、月の光のような静やかな絵も、この絵本の魅力のひとつ。
ゆったりとした月に誘われて、しみじみと味わいたくなる一冊です。
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