いなか道を村から村へ、熊といっしょに芸をしながら旅する男がいました。
友だちは、熊と神さま。
男は「熊おじさん」と呼ばれ、7つのまりでお手玉をし、熊は音楽に合わせて踊りを見せます。
夜になると、おじさんは火のそばで熊に星のおはなしを聞かせ、神さまと熊のために角笛を吹きました。
その音色は、森の動物たちもうっとりと聞き入る優しい響きで、深い眠りへと誘います。
旅をするなかで、ふたりは助け合いながら、困難を乗り越えていきます。
美しい音色の角笛と共に。
季節が巡り、年月が流れ、のんびりと歩けたいなか道を自動車が猛スピードで駆け、旅芸人の歩く余地もないくらいに農村風景も変化していきました。
でもふたりは変わらず、ひと呼吸に三歩の足どりで歩き、旅を続けました。
ある夜、いつものおはなしの後、おじさんは角笛を熊の首にかけました。
「この角笛をもってると、いいことがあるからな」
「きっといいことがあるよ」
角笛を熊に託して空へ還っていったおじさん。
熊はおじさんのことがどうしても忘れられず、ときどき面影を感じるためにそっといなか道を歩いたり、人恋しくて村へ出かけたり……。
季節が巡り年月が随分と過ぎた今でも、耳をすますとあの角笛のメロディーがどこからともなく聞こえてくるみたいですよ。
環境や状況がどんどん変化していくなかでも、決して変わらないものは、お互いを思いやる心。
そして人生を豊かにするのは、その心の交流と安心できる存在が心の内にいるという強さなのではないか、ということを気づかせてくれる物語です。
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