ふわっとしたスーツを着こなし、ふくよかな笑みをうかべるこのおじさん。
実は、世界に類を得ないほどの、どろぼうの名人。
くまさぶろうです。
どろぼうといっても、はじめからそんなに上手にどろぼうができたわけではありません。
まずは、てはじめに、砂場であそんでいる男の子のシャベルを、すっ。
食べ歩きしているとこちゃんの手元からコロッケを、すいっ。
雨の日には、しゃれた紳士の傘を、すいっ。
そのうち「はなれているものはすいよせる。おおきなものはちぢめてとる」なんていいながら、動物園の大きなゾウまで……。
もう、くまさぶろうに、盗めないものはありません。
年月がたち、モノだけではなく、ひとの心までをも盗みとることができるようになってしまいました。
ひとの心を、です。
つまり、誰かの心の痛み、情けない気持ちを、です。
くまさぶろうは、そうして、やっとやっと、悲しい気持ちが嬉しさにかわることを知るのです。
さっきまでズキズキしていた心の痛みが、ふっととれてしまった。
さっきまで泣き出しそうだった心が、急にすっと軽くなった。
そんなときは、もしかして、くまさぶろうが近くにいて(遠隔でもだいじょうぶなようですが)そんな気持ちを盗みとっているのかもしれませんよ。
ポカポカと降り注ぐおひさま色の絵本。
くまさぶろうの心の色、そのものなのかもしれませんね。
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