薬草で人の病を治す薬師(くすし)と、どんな傷をも癒す「銀樹」をめぐるおはなし。
主人公の少年シンは、幼くして父母を亡くし、旅の一座の一員として暮らしていました。
乱暴者の座頭に殴られ、瀕死の状態で倒れているところを薬師のマボウに助けられます。
シンは、マボウのもとで薬草や薬樹、山のことを学び薬師になります。
そして、瀕死から救ってくれた「銀樹」の場所を教えてもらいます。
「シンはこころのなかで思った。
ようやく会えた。
やっと会えた。」
銀樹とは、樹皮も葉も銀色に輝くちいさな木。
それはそれは生命力に満ちた木でした。
そっと幹に触れると、指先から湯のように温かいものが流れ込み、耳の奥をじんわりと温めました。
その感覚は、ずっと忘れられずシンのなかに残り続けます。
ある日、どんな痛みもやわらげ癒してくれる薬があると聞いて、となりの里の薬師が訪ねてきます。
気鬱に効く薬を国じゅう探しまわり、やっと辿りついた、という込みいった事情があるようです。
マボウは仲間と話し合いを重ね、銀樹を煎じた薬を分けることにします。
決して、その木の場所を明かさないと約束した上で。
マボウたちは、ちいさな銀樹を守り切ることが出来るのでしょうか……。
シンにとって、命を助けてくれた銀樹はかけがえのない存在。
その木とつながっているからこそ、ある夜、銀樹の叫びに近い声が聞こえました。
何か起きたに違いない、と急ぎ助けに行きますが……。
シンの銀樹へのまっすぐな思いと、仲間を思いやる優しさが交錯する物語。
限りあるものを奪い合うのではなく、分かち合うこと。
それこそが、争いのない在り方を見出せるヒントではないか、と考えさせられます。
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