「ぼく」の家には、おおきな木が一本立っています。
それはもうおおきくて、てっぺんなんか見えません。
そんな木を目の前にすると、どうしたってのぼりたくなるものです。
「ぼく、いまに ぜったい のぼっちゃう」
「ぼく」は想像します。
この木にのぼったら、どんな風景が見えるのか。
おうちを見下ろし、ビルを見下ろし、それでもどんどんのぼっていくと、雲を突き抜けジェット機にあいさつし、宇宙にだって行けてしまうのです。
どこまでもまっすぐに伸びていく木の姿が、ずんずん突き進む子どもの姿と重なります。
明確なゴールなんてない。
どこにたどり着くのか分からない。
ただただのぼっていくことが楽しくて、移りゆく景色に心が躍る。
高いところからの見晴らしが美しくて、さわやかな風も吹いてくる……。
そうやって夢中になっているうちに、気がついたらずいぶんと高いところまでたどり着けてしまうのです。
一歩前へ踏み出す勇気が出ないこともあるでしょう。
私には無理、と諦めてしまうこともあるでしょう。
でもきっと人には生来、どこまでもどこまでものぼっていける、勢いと力強さが備わっているのです。
きらきらした瞳で木を見上げる「ぼく」に背中を押してもらったような気がします。 |