この本の主人公は、いちごばたけの土の下に住んでいる、ちいさなおばあさん。
おばあさんのしごとは、春にいちごの実がなると、赤い色をつけていくこと!
ある年のこと。
春はまだずっと先のはずなのに、ぽかぽかあたたかい日が続きました。
「へんだねえ。あたしゃ いまごろは ふわふわけいとで あんだ えりまきと くつしたが てばなせないんだがねえ……」
外に出てみると、いちごばたけには青々とした葉っぱが伸びています。
たいへん! おばあさんはあわてて、赤い色をたっぷり作る準備にとりかかります。
おばあさんは、全力で、そして真心こめて、いちごに色をつけるしごとをやりとげます。
焦ったり、うれしくて歌ったり、悲しくて泣いたり……。
おばあさんの揺れ動く気持ちはすべて、いちごを赤くするというしごとへのプライドから。
おばあさんはひとりで暮らしているみたいで、少し孤独の影も感じます。
そんなところも含めて、かっこいい女性なのです。
この絵本のもう一つの魅力は、色。
全体的に少し暗めのトーンだけれど、どのページも美しく印象的な色で彩られています。
おばあさんがいちごの色づくりをする描写では、さまざまな色のイメージが体の中を通り抜けるような気持ちがします。
中谷千代子さんの絵の魅力を存分に味わえる一冊です。
いちごばたけに行ったら、「この下におばあさんがいるかな?」とふと想像してしまったり、いちごを見て「あのおばあさんが色をつけてくれたかな?」と楽しくなったり。
あなたの心の片隅にも、ちいさなおばあさんが住みついてしまうかもしれません。
|