ぽかぽか陽気が気持ちよくて、きっと山のくまさんも目を覚ましているころでしょう。
長い冬眠から目覚めるって、どんな感じなんでしょうね。
最初にくまさんのねどこに届くのは、きっと雪がとける音や春風のにおい。
うーん、なんだか気持ちがいいぞ。
そろそろ外に出てみようかな。
そう思ったのでしょうか、のっそりのっそり穴から出てきてぼんやりあたりを見回してみると、小さな黄色い花がそこここに咲いています。
あぁ、きれいだなぁ、くまさんはぼんやりした頭で考えはじめます。
なんていうんだっけ……あぁ、そう、たんぽぽだ。
でも……とくまさんは思います。
ええと ぼくは だれだっけ
だれだっけ
ぼんやり考えるくまさんの耳に、さらさら水の流れる音がきこえてきます。
ちょっとのどがかわいたなぁ、そう思ったのでしょうか、ぼんやりしたまま川辺にやってきます。
するとどうでしょう、水の中からいいおかおが、こちらを見ているではありませんか。
そこでようやく思い出します。
みずに うつった いいかお みて
そうだ ぼくは くまだった
よかったな
「ぼくはだれだっけ」これはきっと、だれもが一度はぶつかる問い。
私がはじめてまど・みちおさんの詩「くまさん」を読んだのは、ちょうどそんなことを考えている中学生のころでした。
真っ暗な穴の中で迷い奮闘しているとき、この詩を読むと、くまさんがのんびりと「そのうち思い出すよ。春はくるもの」とでも言ってくれているような気がします。
そのとき目にする自分は、きっと「いいかお」をしていることでしょう。
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