「お月さん、あんた できたての ほやほやの チーズで できてるんでしょ。」
しんと静かなある秋の夜、眠れないほどおなかを空かせたちいさいねずみは、お月さんにちょっとかじらせてとお願いします。
でもお月さんはなんにも言いません。
ただ「ちんがりわらっている」だけ。
屋根にのぼっても、木にのぼっても、お月さんはあっというまにもっと高いところへ行ってしまいます。
お月さんが降りてくるお手伝いをしようとしても、長いはしごは重くて動かせません。
冷たい雨の日にはずぶぬれになってお月さんを探し、ちいさいねずみは風邪をひいてしまいます。
一生懸命お月さんを追いかけるねずみのことを、お月さんは非難したり冷たくあしらったりはしませんが、励ましてあげることも、手助けしてあげることもありません。
ただただそこにあって、「ちんがりわらっている」だけ。
でもねずみはお月さんを追いかけているうちに、思いがけず幸せなくらしを見つけます。
決断を下すのも、何か行動をおこすのも自分。
そのときもしかしたらひとりぼっちかもしれない。
でも大丈夫、探しているものはきっと見つかるよ。
最初に思っていたかたちとはちがうかもしれないけれどね。
お月さんはそう言って、ほほ笑んでくれているのかもしれません。 |