ちいさなおんなのことおかあさんの、あたたかいお茶の時間に、ベルを鳴らしてやってきたのは、1ぴきのトラでした。
毛むくじゃらで、大きな、しまもようのトラは
「おちゃのじかんに、ごいっしょさせていただけませんか?」
とていねいにあいさつをすると、おちゃに招かれます。
ところがこのトラ、サンドイッチだけではなく、パンに、ぎゅうにゅう、おちゃ……、と家じゅうの食べものを、次から次へとたいらげてしまうんです。
部屋を優雅に歩いてまわり、冷蔵庫や戸棚、水道やおふろのみずまで、ぜんぶ!
おんなのこやおかあさんは、というと、この様子にまったく動じることはありません。
トラが食べているあいだ、おんなのこはトラにぴたっと寄り添って、ふさふさのしっぽをなでていたり。(この姿がなんとも愛くるしい!)
トラの次の訪問をまっているような、余裕の行動さえも描かれています。
驚きの訪問客の、傍若無人ともいえかねない物語ですが、絵本を閉じるまで、いえ閉じてからも、こんなにも穏やかな気持ちでいられるのはなぜでしょう。
エレガントで礼儀正しいトラの姿、目の前の現実をすべて受け止めて包み込むこの家の人たちの寛容さ、ていねいな言葉づかい、レトロでおしゃれな画風、すべてが読み手の心をやさしく揺り動かすからでしょうか。
日々スピードが求められる今ですが、この絵本を開いている間と、読み終えたあとの時間、少しだけでも減速して、だれかと「おちゃのじかん」や「おしゃべりのじかん」を過ごすことができますように。 |