大きな木が1本、描かれました。
きっと、作者の生まれ育った、イタリアに生きる大木です。
太い幹が枝葉をひろげ、その腕に多くの命を抱いて、じっとそこに立っています。
文章は、ありません。
すべては、絵の中に。
土を覆った、一面の深い雪の中、1本の大木が立っている。
葉はなく、太く細くふしくれだった枝えだを、寒さの中、寂しげに灰色の空へ伸ばしている。
やがて雪は、とけていく。
小さな草の芽が、地上へ飛び出そうとしている。
春が来る。
リスが、目覚めて動き出す。
地表へと伸び始めた草の芽も、大木の若芽も、あたらしい緑に心おどらせている。
鳥がつがいでやってきた。
去年の巣を直して、1羽がうずくまる。
卵が孵って子が育ち、巣立ちの時は、もうすぐ。
季節は夏へ。
そして、木は秋を迎え、冬を越え、また春へと、多くの命を見守りながら、そこにじっと立っている。
葉の色づく様子や枯れ落ちた姿、冬ごもりのために忙しく実を集めるリスなど、目に見えるものが多く描かれた一方で、目には見えないものも多く描かれています。
鳥のさえずり、土のあたたかさ、リスが枝を駆けまわる音、光や風。
幾千もの葉のざわめき……。
命をその身にたたえ、さらには他を育て、人よりも長く生き、多くを見つめ続ける木。
木の喜びがうたになり、木の驚きがうたになって、野を伝い、空へと響いているはず。
今日も、木はそこにじっと立っています。
世界に響く声で、静かにうたいながら。 |