『ないた赤おに』、『りゅうの目のなみだ』など、心を穿ち、ふるわせる童話を数多く遺した、浜田廣介には、また母を慕う幼子を描いたものがありました。
ふるい栗の木のほらに、むく鳥の父子がすんでいました。
わたのようにあたたかなすすきの穂を敷き詰めて、冬の日々を過ごしていました。
むく鳥の子にはとうに、母鳥がありませんでした。
でもそれは、遠いところに出かけているから、と、そう教えられていたのでした。
今か、今日かと、母の帰りを待つ幼子は、ある夜、羽のすれあうようなかすかな音に目をさましました。
それは、栗の木の枯葉が冷たい風に揺れている音でした。
夜が明けて再び見ると、ただ1枚残った枯葉が、朝の光で金色に照らされていました。
毎夜、枯葉の音を聞くうち、会えぬ母鳥の羽音であるように、その葉が慕わしくたいせつなものとなり……。
生まれながらに人はその本質を善と捉え、もの悲しくも、あたたかさとつよさを合わせもつ透明な心を綴った、ひろすけ童話。
静かな冬の日に、懐かしくゆっくりとページをめくってみてください。
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