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書籍名 小川未明童話集
―赤いろうそくと人魚―
出版社 新潮社
著者 小川未明/作
出版年 2003年
定価 460円+税

あ ら す じ

 その作品数の多いことからも、「日本のアンデルセン」と呼ばれる小川未明。
「未明」は、正しくは「びめい」とよむことは、あまり知られていない。
同様に、『赤いろうそくと人魚』という作品があり、
これには、子どもの頃に教科書などで出会った人が多いが、
他にも、ほんとうに多くの物語が遺されていることは知られていない。

 『野ばら』という作品がある。

二つの諍いの無い国の国境に、それを示す石碑があり、
互いの国からただ一人ずつの人間が、これを守るため置かれた。
一方の兵士は老人で、もう一方は青年だった。
他に人もなく、することもなく、
いつしか二人は互いに尊敬し合うことのできる友になった。
みつばちの羽音で朝を迎え、挨拶を交わし、
将棋を差し、小鳥の唄に耳を澄ませ、故郷を語らう時を過ごした。
そして日は経ち、突然に戦争が始まった。
昨日まで友であった二人は、敵同士になった。
一人は前線へ。そして、いま一人は石碑と共に残された。
老人は友を思い、その無事を案ずるものの、遠い戦場からの音は聞こえない。
報も無く、焦燥の日々を過ごす。
そして、彼に会ったのは、束の間の夢の中。
老人へ黙礼をし、国境の傍らに生きる野ばらの香りを懐かしみ、
そして、もう青年はそこにいなかった。


 教訓 ─ そう、捉えることもできる。
確かに、無くした命と同じものは、もう二度とかえらない。
「人は、自らが生み出すことのできないものは、消し去ってはならない」のである。
 だがしかし。
 そっと深い海の底で小さく光を放つような、どんな人の心にも響く梢のざわめきのような、
手のひらに包み込むことのできる、一粒の光玉。
 大人だからこそ受けとめることの出来るものをも込めて、
小川未明は遺してくれたのではないだろうか。



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