齢97を数える、ひとりの男性。細いお顔に、時々眼鏡をかけたりして、パリッと糊のきいたシャツを着る。きっとどこかですれ違っても、彼の人だとは気付かない。 でも、その人が皺の刻まれた手を額にあて、空を仰いで佇んでいたら、何もないように見える道端で、しゃがみこんでじっとしていたら。ふと気になって、誰もが振り返ってしまうかもしれない。
「ぞうさん」「一ねんせいになったら」「やぎさん ゆうびん」幼い頃、誰もが聴いたことのある、そして母親と共に口ずさんだであろう、遠い日の馴染み深い歌詞が、ふっと記憶によみがえる。
含羞の人と言われる詩人は、語り口も朴訥として、そして何より謙虚であるという。きっと、その瞳にはとても純粋な光を宿して、そして心には、はかりしれないほどの奥深さを秘めていらっしゃるのだろう。
「一生懸命になれば、いのちの個性が際立つ」「すべての存在は、そこにあるだけで尊い」と、不変の輝きを放ちつづける真理と出会わせてくれる一冊。シンプルな言葉に込められた、感謝と祈りを受けとるとき、まど・みちおというその人の、手の温みを思わずにはいられない。 |