ある日、おじいちゃんのうちのドアが、トントン。
ちょこんと顔をのぞかせたのは、白くてまるいふわふわの“おきゃくさま”。
おじいちゃんが待ち焦がれていた“たびのおとも”です。
さあ、おじいちゃん、あの世へ旅立つための準備スタート!
おじいちゃんったら、まるで、遠足の前の日のようなはしゃぎようです。
タンスの下から小銭をかき集めて(あの世でも使うんですって)、ゆでたまごを作って(旅の途中でおきゃくさまと食べるんですって。塩も忘れずに)、お気に入りの服えらび(着ていく服はおばあさんが好きな服!)。
おきゃくさまからうれしいお知らせもありますよ。
「むこうについたら おくさんが むかえに来てくれますよ」
ああ、うれしい。
ああ、まちどおしい。
ひげそり、あかすり、パックにも余念がありません。
このおじいちゃんが暮らしていたのは、韓国のとある街。
日本のどこかの風景のような桜が咲きほこり、公園にはすずめやチョウがあそび、おじいちゃんの歩む背中に、明るく手を振っているかのよう。
最愛のおばあちゃんがいるから?
人生を幸せに全うしたから?
それとも、手をつないであの世へと歩く友がいるから?
おじいちゃんはもう、杖をついて前しか見ていません。
足取りも軽やかです。
こんな風におめかしして、この世に幕を閉じられたらいいですね。
「さよなら」ではなく、大好きな人に会いに行く姿に「いってらっしゃい」と声をかけて送り出したいですね。
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