町はずれのキャラバンで孤独に暮らす、ひとりのおばあさん。
暮らしに必要な最低限のものすら底をつき、今日を生きるために、雪の中、町へとでかけます。
アコーディオンと、銭を入れる箱だけを肩にかけて。
凍てつく寒さの中、おばあさんの演奏に足をとめる人はなく、耳を傾ける人もなく、とうとう商売道具のアコーディオンを質屋に入れることに。
ところが、その僅かな銭すらひったくられてしまいます。
犯人を追いかけて教会へ。
なんとか献金を奪い返したおばあさんは、降誕劇の人形たちが荒らされているのに心を痛め、元通りに飾ります。
もうなにもない絶望感の家路で、とうとう力尽きてしまうのです。
ここからが「small miracle = ちいさな奇跡」のはじまり。
雪の降り積もる中、おばあさんを救いに走ってきたのは、降誕劇の人形たちでした。
心からの善行を施したおばあさんに、それ以上の愛情が返ってくるさまが、ぬくもり半分、ユーモア半分で描かれています。
東方の三賢者がイエスの元に訪れる降誕劇をご存じであれば、なお、彼らのかいがいしい奮闘ぶりに目を細めたくなるでしょう。(ヨセフは大工だから、とか、三賢者の高値がつくものは、など!)
いっさい文字のない絵本ですが、96枚の絵が、このたった1日のクリスマスの出来事を雄弁に語ります。
文字がないからこそ、読み手一人ひとりの心に、物語が生まれるのかもしれません。
質素な暮らしを営むおばあさんの信心深さと、真の愛情に、ラストシーンのキャラバンの灯と空に瞬く星が、静かに答えているように見えませんか。
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