今、かの優しさ、赤い花。
今、このけなげさ、青い花。
人の心の清(さや)かなる、花いちめんに咲きほこり。
あやの年は、十を数える。
まだ幼い妹のそよがいて、暮らしは貧しく、山へ入り山菜とりを手伝ったりもする。
ある日のこと、道に迷い、ひとり、山の奥へ奥へと入りこんでしまった。
そこに広がっていたのは、見渡すかぎりのいちめんの花。
赤い花、青い花、黄色のや、紫や。
おまけに、そこには見目恐ろしげなやまんばがいた。
しかし、やまんばは誰よりその花の美しさを知り、その花を咲かせた魂の尊さを知っていた。
やまんばと遭遇していたわずかな時、あやは知った。
自分が辛抱したひとつが、そこに凜とした赤い花を咲かせ、誰かが生んだけなげさひとつが、涙のつゆをたたえた青く美しい花を咲かせたことを。
優しさの赤い花。
けなげさの青い花。
夢でなく、幻でなく、今もそこにいちめんに。
力強く静かに咲きほこる花の中に、人の心のありようを願った作者の大輪のひとつも、また、これを読んでくださった方の一輪も、きっとそこに。
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