第二次世界大戦をはじめとする、激動の時代最中(さなか)には 数々の優れた児童文学作品が生み出されている。 この作品が、ジェザーチによって書かれたのも、1934年。 ナチスドイツの勢力が、ヨーロッパに脅威をもたらし始めた時期と重なる。
ジェザーチは、チェコスロバキア(現:チェコ共和国)の首都・プラハに生まれた。 子ども時代は、生活環境に恵まれず、貧しく孤独なものだったという。 しかし、その体験こそが、この作品を、よりリアルに、 且つ、登場人物一人ひとりに対し、読者が引き込まれるような世界を 創り出しているといえよう。
物語の舞台は、プラハの下町にある貧民街「かじ屋横丁」。 そこに住む人々は皆、ケチで腹黒い“よろず屋”の主人から 借金の不正な取り立てで苦しめられていた。 配達の仕事で、“よろず屋”に出入りする13歳の少年・フランティークは そのあくどい主人の策略から、罪無き人々を救おうと、 ある夜、水増しされた不正帳簿を、店から盗み出すことに挑む。 しかし、それがきっかけで、物語は横丁全体をも巻き込む、 大変な騒動へと発展していってしまう。
ジェザーチは言う。 『世界中には、このような「かじ屋横丁」が数え切れないほどあって 貧しい人が、何百万と暮らしている。 そして、“よろず屋”の主人のような人もまた、たくさんいる』と。
それにしても、 貧困・社会悪などを題材にしながらも、 作品全体が、明るく愉快な雰囲気に満ちているのは、 ジェザーチその人の、子どもたちに対する、真摯な姿勢の表れではないだろうか。 |