トルストイといえば、『戦争と平和』や、『アンナ・カレーニナ』をはじめ、 数々の素晴らしい作品を書いた文豪として知られていますが、 晩年に書かれた民話集を、是非一度読んでみてください。 『人は何で生きるか』、『火の不始末は大火のもと』、『イワンの馬鹿』、 『二老人』など、ロシア民話に題材を得たその作品群は、 トルストイのまっすぐな心を通して、人間の本来あるべき姿や、私利私欲に囚われない慎ましやかな生き方を私たちに教えてくれます。
この本の翻訳者である北御門二郎氏は、トルストイの「絶対的非暴力」を貫き、 第二次世界大戦の最中、兵役を断固拒否しました。 “農耕こそ一番罪がない”というトルストイの信念に賛同し、 その人生をトルストイの研究と翻訳に捧げた氏が、心血を注ぎ完成させたこの本だからこそ、力のある素晴らしい作品になり得たのではないでしょうか。
トルストイの生きた時代と同様、歪んだ社会が生みだす争いや、 貧富の格差はなくならず、今も人の心は蝕まれていく一方です。 しかしながら、いかなる不安や苦しみに苛まれる時も、 トルストイの残してくれた言葉が心の中にある限り、私たちが道を見失うことはないでしょう。
(北御門二郎氏の翻訳によるトルストイの民話集は、地の塩書房のほか、 あすなろ書房からも再編集され、出版されています。)
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